トークノミクスについて、日本語で詳しく言及している記事はそんなに多くないです。裏付けるように「トークノミクス」の月間検索ボリュームは直近で200程度(参照: ahrefs)。あまり日本語圏で注目度の高いトピックではなさそうです。実はそれがむしろ我々には好機として働いており、私の去年執筆した記事「トークノミクスを理解しないと成功しない」は1万PVを突破し、「トークノミクス」の検索ワードでは約1年間ずっと上位を推移しています。また弊社では国内および国外拠点のプロジェクトのトークノミクス設計や監査を行った実績がありますので、トークン発行や国外取引所へのトークンのリスティング(上場)、トークンでの資金調達でお悩みの方はぜひお気軽にご相談ください。お問い合わせはこちらから。今回はそんなトークノミクスについてもう少し深掘りした内容の記事を前編・中編・後編の三部作で書くことにしました。ぜひこれからのプロジェクト選定やトークノミクス設計に参考に少しなると幸いです。はじめにまず表題にも存在する「トークノミクス」とはなんなのか、説明する人によって解釈のずれが少しあるものの大枠は下記のように理解していいでしょう。トークノミクスとは、トークンの絡んだ経済やインセンティブという抽象的なものを指す言葉です。「Token(トークン)」と「Economics(経済)」が語源なのでそこから見るとわかりやすいですね。その中でもこの記事ではそのトークンを取り巻くインセンティブがどのようにトークンの価格に作用するのか、またそのトークンの価格でプロジェクトや取り巻くエコシステムにどのような作用が起こるのか中心にまとめているので、注視して読んでいただけると嬉しいです。広義として以下のようなものを含みます。トークンの仕組みトークンのアロケーション(配分)トークンの需要と供給トークンにまつわるメカニズムインセンティブ、心理学、行動学ゲーム理論この記事も読む: トークノミクスを理解しないと成功しないトークノミクスの正解クライアントの企業様からもよく伺われる質問、トークノミクスに正解はあるのか。結論から申し上げると「NO」で、トークノミクスの正解はいまはありませんしおそらく正解が見つかることはないと見ています。もし正解があるならわざわざ頼むほどの仕事になったり、プロジェクトメンバーが頭を悩ませることは無いでしょう。プロジェクトにおいてなにを「成功」とし「失敗」とするかは大きく異なり、仮に自分たちが新たに立ち上げようとしたプロジェクトと似たような前例で、そこでうまくプロダクトに作用するトークン設計ができていたとしても、そこと似たようなモデルにしたからと言って成功するとは言い切れません。例えばその時の市況感やコアメンバーやプロダクトへの期待感、マーケティング戦略など様々な要因によって左右されるため一概にこれがいいとは言い切れません。一方でトークンアロケーションなどの設計部分でよく例えられるのが、スタートアップなどの会社の「資本政策」と似ているよね、というもの。そこにはいくつか通ずるものがあり、資本政策も一概に正解はないものの「これさすがにやっちゃダメでしょ」といったような過去の失敗事例やあり得ない設計を避けることはどちらも十分に適応できますね。特にアロケーションの部分はトークン特有の部分を理解することで、大地雷を踏まなければ大きく道を外すことはありません。そこは中編で説明しています。トークノミクスは誰が見るのかトークノミクスは誰が見ているのでしょうか、それはトークンを購入し保有する人です。要するにトークンへ投資を行う投資家のことを指します。皆さんの目に見えているトークンローンチ(TGE)よりも先にベンチャーキャピタルを始めとする投資家へ販売を行い資金調達を行っているケースが一般的です。なのでいちばんにそのトークノミクスを見られるのは投資家ですね。トークンによる資金調達には立ち会ったことがありますが、従来の資本政策と同様にそのプロジェクトの議決権を握る、いわば株式のような振る舞いをしているので、投資家からはなぜその設計になったのかを注意深く聞かれることがよくあります。もちろん投資家のためでのトークンではなく、発行体となるプロジェクトをグロースさせるための手段なので投資家優位な設計にする必要はないですが、いくら優れたプロジェクトでもその点は留意した上で設計を行う必要があります。またTGE後は一般の投資家やユーザーも注意深くトークンの設計を見ています。最近だと投資家のリテラシーも向上しており、トークンのロックや残りの発行量がトークンにどのような影響を与えているかなどの基本的な情報は日本語ソースでも見る機会が増えてきているように感じます。このように投資家の関心を引く重要な要素の一つです。トークンはどのように作用するのか初期のユーザーおよびプロジェクトへの貢献者にトークンを付与することはスタートアップの「ストックオプション」の作用と似たことが起こります。ストックオプションの場合は給与の一部などとして配布され、会社としては現金での支払いを減らせる狙いが資金力の乏しいスタートアップと相性が良く、受け取った人たちはその発行体が成長企業で株式上場が見込める場合には現金支給の給与より多くのキャピタルゲインを将来得られる可能性があります。トークンの配布も上記に通ずるものがあり、初期参入者へのインセンティブを期待させることにより従来よりお金をかけずにプロジェクトをグロースさせることが可能です。配布時の選択肢その配布方法はいくつかあり、代表的なものだとある特定時点での活動を評価して比例したトークン配分を割り当てる「Airdrop(エアドロップ)」。エアドロや給付金などと日本では表現されタイムラインを賑わせています。このようないわゆる「エアドロ狙い」のユーザーをうまく巻き込んでプロモーションを行うも一つの戦略ですね。上記のエアドロップの期待感をうまく利用した例だと、「Arbitrum」「Zetachain」「Sui」「zkSync」などが挙げられます。実際は期待感だけを煽ってエアドロップを行わないプロジェクトもあります。その他には当該プロジェクトのエコシステム貢献や、認知拡大に貢献してくれたエンジニアやプロジェクトに対して奨学金のような「Grant(グラント)」を付与するというもの。主にチェーンを自分たちで構築しているプロジェクトでは、チェーンに展開されたアプリケーションなどのエコシステムが重要なため、この仕組みを採用している場合が多いです。Grantと少し近い方式ですが、初期よりパートナーとなってプロジェクトのグロースを手伝ってくれる組織やプロジェクト、企業に初期よりトークンを割り当てるケースもあります。プロジェクトは初期の負担なく優秀なチームやプロジェクトと手を組めるので、ほとんどのプロジェクトの割当にパートナー枠は存在しています。与える良い影響トークンがプロジェクトに与える影響について、特にトークンによってプロジェクトの命運が分かれる「DeFi」と「Game」の領域で、キャッシュフローが良くない初期、転換期、安定期の3つに分類してそれぞれ見ていきましょう。初期のDeFiではトークンを「流動性の拡大(獲得)」のために利用します。成長してくると「エコシステムの調整」のために利用され、安定期ではトークンが自身のプロダクト外でも利用されたり、より資本効率の高い使われ方がなされ「プロダクトの垂直的かつ水平的な成長」に良い働きを起こします。初期のBCGを始めとするゲームのプロダクトではトークンを「ユーザーの拡大(獲得)」に利用します。成長してくると「コンテンツの消費」に使われるようになり、安定期ではトークンを「ユーザーを長く留めさせるための手段」といったインセンティブによる動機づけによる「寿命の延命」に利用されます。トークンは必要なのかどうかそもそもトークンを発行することが必要なのかという議論があることを本題に入る前に知っておくべきです。トークンを意図して発行していないプロジェクトや、トークンを発行するタイミングをかなり送らせているプロジェクトが増えているのは事実です。トークンによって起こる良い作用を紹介しましたが、もちろんですが良いことばかりではないです。プロジェクトをうまくグロースさせる手段になることもあれば、逆に作用し毒のようになることもあります。トークンの価格は評価に直結しがちで、プロジェクトの進捗に関係なく大きなトレンドに流され価格が下落した場合、ホルダーからは不満の声が増えてきます。いまのまさに暗号資産市場などのリスク投資からお金が抜けている状況をみればわかると思います。トークンの購入者が増えてホルダーが増加することはガバナンスの分散につながる一方で、無知識の大量の株主に対して毎日株主総会を開いているようなものです。プロジェクトのグロースとコストを天秤にかけた上で適切なタイミングを計る必要があります。保有する意味ここまでトークンを従来の株式になぞらえて説明してきましたが、実は株式で間接的に得られる会社の所有権的なものをトークンも持ち合わせているかというとそうではありません。プロコトルで定義された一定の議決権を保有しているまでで、仮に過半数などの一定の閾値を要する量を保有したとしてもプロトコルの所有権に変化はありません。なぜではトークンを保有しようとするのか、そこには間接的にでも利益を享受できるからです。プロジェクトの注目度が上がればプロトコルが生み出す収益も増加し、トークンの需要が増加し価格も上昇します。ガバナンスの同様で、自分がプロジェクトの未来に関与することで利益を生み出せる場合はトークンの需要が増しますよね。単に応援でお金を落としている人はごく少数で、需要を創出してトークンの価格が上がることは良いことですが、後で流動性が少なくなったときには悪の売り圧にしかなりません。前編のまとめいくつか重要なポイントと前提を抑えてきましたが、前編の内容はこのぐらいで留めておこうと思います。実際の需要と供給の話、どのようなトークン設計があるのかといった中枢の部分は中編で話したいと思います。トークノミクスに正解は無いが、地雷設計は意図して避けられるトークノミクスは投資家が見る重要な一つの指標トークン発行がいつも良い作用を起こすわけではないトークンを発行しない、または遅らせるプロジェクトも増えているトークンをうまくハンドリングできているケースは多くないトークンの価格上昇しか投資家は基本見ていない中編は数日後に投稿しますが、それまでに弊社の上級者向けメディアで投稿しているいくつかの記事を見ていただけると、より前提知識が豊富になっていいと思います。トークンアロケーションを適切に設計するには - Ozon Labs Researchトークンロックアップとべスティング - Ozon Labs Researchまた弊社では国内および国外拠点のプロジェクトのトークノミクス設計や監査を行った実績がありますので、トークン発行や国外取引所へのトークンのリスティング(上場)、トークンでの資金調達でお悩みの方はぜひお気軽にご相談ください。お問い合わせはこちらから。