5月1日に新たにCoincheckから発表のあった「トラベルルール」ですが、Coincheckを含む国内事業者の中でも訳あって取り組みが分裂している状況です。今回は国内のトラベルルールについて深掘りしてみましょう。トラベルルールとはなにかTRUSTとSYGNAで二分する国内事業者トラベルルールの大きな影響3つこの記事を読むことで上記の3つのポイントを知ることができます。トラベルルールとはトラベルルールとは、FATF(金融活動作業部会)が提言しているマネーロンダリングおよびテロ資金へのお金の流れを防ぐために作られた国際的なルールです。いままでは電子的なお金の移動を伴う電信送金(為替取引)に対して広く適応されていましたが、近年の暗号資産の普及を考慮し暗号資産の移転にも適応すべきとの意見から、暗号資産を扱う事業者向けにも同ルールが適応されるようになりました。「travel」と聞くと旅行をイメージしますが、英語の意味での価値の「移転」や「移動」から来ています。ブロックチェーンおよび暗号資産の普及や進歩が日々進む中、ルールメイクが十分に行われていなかった背景から近年このような流れが加速しています。その中でもFATFはマネーローンダリング防止対策(AML)およびテロ資金供与防止対策(CFT)の観点から国際基準を提言する立場として力を強めています。トラベルルールができた背景などの詳しい解説は下記リンクからご覧いただけます。この記事も読む: 取引所のトラベルルールとは?今後どうなるのか、わかりやすく解説分裂する国内事業者の派閥後に説明する新たなトラベルルール導入による最大の弊害にも起因するこの内容ですが、色々な要因が入れ混じって生じているものだと考えています。まず大前提として各国のトラベルルールに準拠するために導入しているツールの二分化によって混乱を招いています。TRUSTとSYGNAの選択代表的な国内暗号資産交換事業者の大半は独自のトラベルルールの仕組みを採用するのではなく、グローバルな基準で作られたシステムの導入を進めています。そこでいま、有力候補として選ばれているのが「TRUST」と「SYGNA」の2つのサービスです。TRUSTとは?TRUSTとは「Travel Rule Universal Solution Technology」の略で、グローバル市場で安全に顧客のプライバシーを守りながら、トラベルルールに準拠した情報のやり取りを提供する仕組みです。TRUSTについては下の記事でも詳しく説明しています。この記事も読む: 取引所のトラベルルールとは?今後どうなるのか、わかりやすく解説導入を予定しているしている事業者(日本国外も含む)は2023年5月1日時点で55社で事業者名と本社所在地は以下の通りです。事業者名(本社所在地)リンクAmber Global(シンガポール)https://ambergroup.io/anchorage digital(アメリカ)https://anchorage.com/Balance(カナダ)https://balance.ca/BINANCE US(アメリカ)https://binance.us/bitFlyer(日本)https://bitflyer.com/BitGo(アメリカ)https://bitgo.com/BitMEX(セーシェル)https://bitmex.com/BITTREX(リヒテンシュタイン)https://global.bittrex.com/black[.]com crypto(不明)不明BlocPal(カナダ)http://blocpal.com/Bullish(ケイマン諸島)https://bullish.com/Cake DeFi(シンガポール)https://cakedefi.com/Cboe Digital(アメリカ)http://cboe.com/CEX[.]IO(イギリス)https://cex.io/Circle(アメリカ)https://circle.com/Coinbase(アメリカ)https://coinbase.com/Coincheck(日本)https://coincheck.com/coinhako(シンガポール)https://coinhako.com/coinpass(イギリス)https://coinpass.com/coinsmart(カナダ)http://coinsmart.com/coinsquare(カナダ)https://coinsquare.com/copper(イギリス)https://copper.co/Crypto[.]com(シンガポール)http://crypto.com/currency[.]com(ジブラルタル)https://currency.com/Custodia(アメリカ)https://custodiabank.com/DTC(シンガポール)https://dtcpay.com/exmo(イギリス)https://exmo.com/Fidelity DIGITAL ASSETS(アメリカ)https://fidelitydigitalassets.com/Gemini(アメリカ)https://gemini.com/kraken(アメリカ)https://kraken.com/LiteBit(オランダ)https://litebit.eu/LTP(シンガポール)https://liquiditytech.com/luno(イギリス)https://luno.com/NETCOINS(カナダ)https://netcoins.com/Nexo(アメリカ)https://nexo.com/okcoin(アメリカ)https://okcoin.com/Paxos(アメリカ)https://paxos.com/Paypal(アメリカ)https://paypal.comphemex(シンガポール)https://phemex.com/Prime Trust(アメリカ)https://primetrust.com/Robinhood(アメリカ)https://robinhood.com/sFOX(アメリカ)https://sfox.com/Shakepay(カナダ)https://shakepay.com/Solarisbank(ドイツ)https://solarisgroup.com/standard Custody&Trust Company(アメリカ)https://standardcustody.com/SuisseBase(スイス)https://suissebase.ch/TANGANY(ドイツ)https://tangany.com/TradeStation CRYPTO(アメリカ)https://tradestation.com/UNBANKED(アメリカ)https://unbanked.com/VirgoCX(カナダ)https://virgocx.ca/VOYAGER(アメリカ)https://investvoyager.com/Wealthsimple(カナダ)https://wealthsimple.com/ZENUSBANK(プエルトリコ)https://zenus.com/zerohash(アメリカ)https://zerohash.com/zodia(イギリス)https://zodia.io/導入予定事業者の所在地を見てみると、北アメリカ地域やEU圏、その他にはシンガポールなどの金融当局の規制下で暗号資産ライセンスを取得し、事業を行ってい場合が多いですね。一方でキプロス、セーシェル、マルタといったオフショア地域に所在する企業ではあまり導入が進んでいません。SYGNAとは?SYGNAとは暗号資産関連事業者(VASP)向けにグローバルなコンプライアンスに関するシステムを提供するサービスで台湾に拠点を置くCoolBitXが開発を行っています。その中の「Bridge」というサービスが、今回のトラベルルールに適応するために作成されました。SYGNAについては下の記事でも詳しく説明しています。この記事も読む: 取引所のトラベルルールとは?今後どうなるのか、わかりやすく解説導入を予定しているしている事業者(日本国外も含む)は2023年5月1日時点で32社で事業者名と本社所在地は以下の通りです。事業者名(本社所在地)リンクBHEX(シンガポール)https://bhex.com/BitoPro(台湾)https://bitopro.com/Coincola(香港)https://coincola.com/DigiFinex(シンガポール)https://digifinex.com/coinhako(シンガポール)https://coinhako.com/Independent Reserve(オーストラリア)https://independentreserve.com/Maicoin(アメリカ)https://maicoin.com/Onchain Custodian(シンガポール)https://oncustodian.com/ACE exchange(台湾)https://ace.io/Antalpha(シンガポール)https://antalpha.com/Apifiny(アメリカ)https://apifiny.com/AscendEX(シンガポール)https://ascendex.com/BeeBlock(韓国)https://beeblock.co.kr/Bitbank(日本)https://bitbank.cc/Blockovill(エストニア)https://blockoville.com/BTCBOX(日本)https://www.btcbox.co.jp/CoinBest(日本)https://coinbest.com/DMM Bitcoin(日本)https://bitcoin.dmm.com/Firstbloc(リトアニア)https://firstbloc.net/Zebpay(ラトビア共和国)https://zebpay.com/GMO Coin(日本)https://coin.z.com/BitTrade、旧Huobi Japan(日本)https://bittrade.co.jp/Kirstfin(チェコ)https://karstfin.com/LINE Xenesis、旧LVC(日本)https://linexenesiscorp.com/MEXC Global(セーシェル)https://mexc.com/Nogle(台湾)https://nogle.com/PayGate(南アフリカ)https://paygate.co.za/Pionex(シンガポール)https://pionex.com/PundiX(シンガポール)https://pundix.com/Rakuten Wallet(日本)https://rakuten-wallet.co.jp/SBI VC Trade(日本)https://sbivc.co.jp/Tokyo Hash(日本)https://tokyohash.co.jp/導入予定事業者の所在地を見てみると、台湾の企業が開発したということもあり、香港や台湾などの中華圏および日本、シンガポールが多いですね。またアフリカの地域を拠点とする企業がいくつかいることも興味深いです。SBI VC TradeがSYGNAを採用した理由しかしなぜ国内事業者がこのように分裂してしまうことになったのか、また国内事業者の大半がSYGNAを選択することになったのか。SBI VCトレードの常務取締役で、SBIリクイディティ・マーケットの取締役を務める近藤 智彦氏は以下のようにツイートしています。%3Cblockquote%20class%3D%22twitter-tweet%22%3E%3Cp%20lang%3D%22ja%22%20dir%3D%22ltr%22%3E%3C%2Fp%3E%3Ca%20href%3D%22https%3A%2F%2Ftwitter.com%2Ftomohiko_kondo%2Fstatus%2F1654100346627850243%22%3E%3C%2Fa%3E%3C%2Fblockquote%3E%20%3Cscript%20async%20src%3D%22https%3A%2F%2Fplatform.twitter.com%2Fwidgets.js%22%20charset%3D%22utf-8%22%3E%3C%2Fscript%3Eこのようにツイートしていることから、SBIグループが過去に出資を行ったという資本関係や、実証実験段階からの協力関係にあると考えられます。分裂理由の考察ここからはあくまで推測になりますが、私は分裂した理由を以下のように考えています。まずSBI VC Tradeが2020年頃から実証実験を行っていたという背景から既存の新興金融企業の中でも影響力の大きいSBIに、新興暗号資産事業者が追従した。しかし国内では比較的早期参入事業者に位置するbitFlyerやCoincheckは、それぞれ国外のファンドによる買収やSPAC上場の話が出ていることから、グローバルでロビー活動をしっかり行っているCoinbaseが開発したTRUSTを採用した。トラベルルールの大きな3つの影響いままで紹介してきた3つの新たなトラベルルールが国内事業者に適応されるといくつかの影響があることが考えられます。異なるシステム間での送受信が不可能にでは結論として我々にどんな影響があるかというと、上記の「TRUST」と「SYGNA」を採用している一方から他方への暗号資産での送金が今後できなくなると言うことです。下記が現在それぞれのシステム導入を発表している事業者です。TRUSTSYGNAbitFlyer, Coincheckbitbank, DMM Bitcoin, Huobi Japan, Rakuten Wallet, SBI VC Trade, BTCBOX, GMO Coin, Tokyo Hash, CoinBestこう見るとSYGNAを採用する事業者の方が多いように感じますが、取引量がトップの国内最大手のbitFlyerとCoincheckの2社がTRUSTを採用していることから、もしかしたらシステムごとでみた利用者に大差はないかもしれません。ここでいう送受信が不可になる組み合わせは「TRUST対TRUST」と「SYGNA対SYGNA」以外のすべての組み合わせです。送付「可能」な組み合わせ例送付「不可能」な組み合わせ例TRUST間の送付→ bitFlyerからCoincheckTRUSTからSYGNASYGNAからTRUST→ CoincheckからDMM BitcoinSYGNA間の送付→ Huobi JapanからbitbankTRUSTもしくはSYGNAからいずれも未採用の通知対象国事業者→ GMO CoinからZaif上記のように複数の暗号資産取引所を使っているユーザーには大きな影響を与えることになりそうです。また適応開始時期をどの事業者も2023年5月1日現時点で同年5~6月頃と濁していることにより、急な適応開始発表が今後ある可能性があります。非通知対象国への送付に時間がかかるこれは新しいトラベルルールに限った話ではありませんが、現行のトラベルルール適応時からSNS等では不満が多く出ているポイントです。トラベルルールが適応されるのは通知対象国に含まれる事業者のみで新しい方も変わりないですが、通知対象国に含まれていない事業者やアンホステッドウォレット(メタマスクのようなセルフカストディウォレット)への出金のリスク判断は出金を行う各事業者の判断に委ねられることになります。よって自身のウォレットや通知対象国に含まれないBinanceやOKXなどの大手暗号資産取引所への送付を試みた際に要す時間が以前より多くなってしまう可能性があるということです。ルールなので仕方ないですが、DeFiや海外の取引所を多く利用しているユーザーからしてみるといい迷惑ですよね。オフショア取引所からの入金ができなくなる可能性Coinckeckのプレスリリースを見て読み取れるように、暗号資産の受け取り時にも確認を行う旨が記載されています。特にオフショア地域を拠点とする暗号資産取引所の場合、一つ前のリスク判断を各事業者に委ねるという部分の理由と同様に、暗号資産の入金(入庫)自体を断られる場合があります。そうなると海外の暗号資産取引所をメインで利用し、円転(日本円への転換)目的に国内の取引所を利用しているユーザーは大きな被害を被ることが予想されます。まとめこの記事ではトラベルルールに関して以下の内容を解説しました。最後に一緒におさらいをしましょう。トラベルルールとは取引所から暗号資産を移動するときの国際的なルールTRUSTとSYGNAの採用で国内事業者が二分している暗号資産の取引所間の送受信、送付時の確認事項の増加などの要因によって、いままで以上にたくさんの制約がユーザーに課される場合がある。トラベルルールを始め、このような国際的な枠組みを追うことは、暗号資産市場全体の規制感を知ることができるのでこれからも当メディアで取り上げていきたいと思います。